スポーツ障害に対する鍼灸治療

今回のブログ授業は、7月19日に行われた「スポーツ障害に対する鍼灸治療」です。

講師は、臨床医学各論などの授業を担当している塩崎 郁哉先生です。

 

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みなさんはスポーツ障害とスポーツ外傷の違いをご存じですか?

スポーツ障害とはスポーツによって長期間に運動負荷が繰り返し生じ、それにより筋肉、腱、骨、骨膜などに慢性的な炎症をきたすものです。野球肩、野球肘、テニス肘、ゴルフ肘、筋筋膜性腰痛、腰椎分離症、鵞足炎(がそくえん)、腸脛靭帯炎(ちょうけいじんたいえん)、シンスプリント、足底筋膜炎、疲労骨折などがあります。

 

 

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スポーツ障害の種類

 

スポーツ外傷とはスポーツによる転倒、他の選手との衝突、ボールやスポーツ用具が当たるなど1回の外力により組織が損傷されるものをいいます。転倒や衝突では骨折、脱臼、捻挫、打撲といった外傷がよくみられますが、外傷は接触しなくても生じる場合があります。例えばバスケットボールやサッカーといったストップ・ターンや切り返しの多いスポーツでは、片足が地面に接している状態で、その足のつま先が外側を向き、膝が内側に入る姿勢になる(knee-in toe-outといいます)ことで、前十字靭帯を損傷することがあります。あるいは剣道やバドミントンなど強い力で地面を蹴り踏み込むようなスポーツでは、アキレス腱断裂が生じることがあります。

スポーツ障害とスポーツ外傷を合わせて、「スポーツ傷害」といい、特にスポーツ障害は慢性的なケガですから、鍼灸治療院にも部活動を行っている学生の方やスポーツ愛好家の方、プロアスリートの方が治療に訪れます。

さまざまなスポーツ障害があるなかで、今回はテニス肘といわれる「外側上顆炎」の治療についてご紹介します。
外側上顆とは上腕骨の一部で肘の外側にあります。この外側上顆には手首の背屈(手の甲側に反らす)に関与する筋肉が複数付着していて、テニスやバドミントンのようなラケットスポーツのバックハンドで負担がかかりやすいといわれています。これが通称テニス肘の由来です。

 

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実は、この「外側上顆炎」、スポーツ障害だけで見られるわけではありません。日常的に重いものを持つことや、パソコンやスマートフォンの操作が多い方、育児でお子さんの抱っこが多い方など、手を酷使する方にみられやすいのです。
テニスをしていないのにテニス肘と言われた…なんて方もいらっしゃるかもしれませんが、テニス肘はあくまで通称です。「外側上顆炎」と認識してくださいね。

では、われわれ鍼灸師のもとに肘の外側の痛みを訴えた患者さんがいらっしゃったとします。この時、痛む部位の確認やスポーツ歴・日常生活背景を知ることができれば、「外側上顆炎」が頭に浮かんできます。確認のために、外側上顆部に負担をかけて痛みが生じるのか鑑別するテスト法を行います。例えば、トムゼンテストという方法があります。患者さんの手の甲を下に押すように抵抗をかけ、患者さんには手首を反らす背屈の動きをしてもらうよう指示をします。この時に外側上顆部に痛みが出現すれば、このテストは陽性となり、強く外側上顆炎を疑うこととなります。
鍼灸師はレントゲンを撮るといった医療行為はできないので、このようなテスト法を駆使しながら鑑別を行い、病態を把握して治療に結び付けていきます。

 

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トムゼンテスト



さぁ!お待ちかねの治療法です。
大きく分けて考え方は二つあります。一つは炎症の生じている外側上顆周辺に鍼をして痛みを抑え、酷使している外側上顆に付着する筋肉に鍼をして筋肉を柔らかくして、疲労を取り除くというものです。外側上顆周辺に存在する経穴(いわゆるツボ)や、外側上顆に付着する筋肉上の経穴を治療点とします。
もう一つは外側上顆周囲を走行する経脈(気の通り道)の異常が生じ痛みが出ていると考えるものです。外側上顆周囲には手の陽明大腸経(てのようめいだいちょうけい)という経脈が流れています。東洋医学には気の流れが滞ると痛みが出現するという考え方があり、それを「不通則痛」といいます。この考え方を治療に生かし、手の陽明大腸経上にある経穴を治療点とします。

 

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以上のような二つの考え方を融合させ、合谷(ごうこく)、手三里(てさんり)、曲池(きょ
くち)、尺沢(しゃくたく)といった経穴鍼灸治療を施します。

 

◆外側上顆炎に効果のある経穴はこちら 

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鍼灸師東洋医学の考え方に基づいて施術を行う印象があるかと思いますが、本当に様々な観点から治療を行っていきます。解剖学といった西洋医学の基礎的学問も非常に重要ですし、鑑別するためのテスト法を理解しておく必要があります。もちろん、東洋医学的な考え方や経脈や経穴の場所や位置を理解しておくことも重要です。勉強は大変と思われるかもしれませんが、様々な考え方があって理解していくのが楽しいですよ!


今回は外側上顆炎にスポットをあて、治療の話をさせていただきました。
ここでスポーツに関して鍼灸治療ができることをまとめてみます。
①スポーツ傷害の回復をサポートする
②競技者の疲労回復などコンディショニングを行う
③スポーツ傷害の予防を行う

①~③を担うこと、つまりこれは競技パフォーマンスの向上ということにつながっていくと考えています。
特に③の考え方が重要です。「ケガや病気をする前に予防をする」=「未病治」という考え方に通じます。未病治とは病気になってしまう前に養生をして、健康状態を維持すること。スポーツ選手のみならず、すべての人々に対して通じる考え方です。鍼灸という方法を利用して、選手が強くなるサポートができれば素敵ですよね。

本校では3年間を通して、今回お話しした外側上顆炎のようなスポーツ障害の治療法について学ぶこともありますし、腹痛や頭痛などのスポーツ障害以外の治療法についても勉強していきます。鍼灸師の資格を持ってトレーナーという立場で仕事をされている先生方は決して鍼灸だけの勉強をされているわけではありません。関わっている競技スポーツの特性を理解することや、ケガしたあと競技復帰に向けてのアスレティックリハビリテーションの知識・技術、テーピングの知識・技術、心肺蘇生法の知識・技術など多岐にわたっています。本校のスキルアップゼミでは実際にトレーナーとして活躍されている先生方をお招きして、トレーニング方法やテーピングの方法なども学ぶことができますよ。

今回のオープンキャンパスに参加していただいた皆様、本当にありがとうございました。
来月もオープンキャンパスを開催する予定です。今後もオープンキャンパスのご参加を心よりお待ちしております。