夏の体調不良、いやな漢字

この記事で話題にする東洋医学の知識は「淫」です。

 

字だけ見ると、なんだかエッチな感じがしますが、この漢字の意味は「過剰」「過多」や「度外れ」です。正常な範囲を超えて身体にとって害となる、というのが東洋医学でいう「淫」の状態なのです。

 

したがって、体調が悪い時は身体の中で何かが「淫」になっていると考え、ツボへの刺激などでそれを正常範囲に戻すのが、鍼灸治療のひとつの方法です。

 

さて、気候の変化が体調に影響することは言うまでもありません。東洋医学では「風・寒・暑・湿・燥・火」の6つの気候変化を挙げ、身体に悪影響を及ぼす際には、それらを「六淫」と呼んでいます。

 

梅雨や長雨で湿度が上がり、夏本番に向かう時期には、身体の中でも「湿」が過多になりがちで、それが邪気である「湿邪」となって体調不良につながります。具体的には、身体の重だるさやむくみ、胃の不調といった症状です。

 

こんな場合の養生法は、身体の中に溜まっている過剰な水分を排出すること。適度な運動をして身体を温めた後に、利尿作用のある麦茶やスイカなどを摂って「湿」を尿として外に出しましょう。

 

ツボでは「足三里」「豊隆」「陰陵泉」への刺激が、「湿」を取り除くうえで有効です。

 

もう一度「淫」という漢字に戻れば、この字の旁(つくり。字の右半分)は、神様に祈る人を表しているそうです。それも、爪先立って祈る人の上に、さらに手を載せて、激しすぎる祈りを表したものだといいます。あまりに激しいので、かえって邪悪なものを招き寄せる――それが「淫」の根本の意味です。祈っている本人、一生懸命なのに、かわいそうですね。何事もほどほどに、というのが東洋の知恵でしょうか。

 

こんなふうに漢字の成り立ちや意味の根本にさかのぼってみると、鍼灸をはじめとする東洋医学の理論が一層、深く理解できるように思います。

 

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歯の痛み

 

 

健康の要の一つとして“食”が挙げられますが、その食の入口である口腔は、私達の全身状態に大きな影響を及ぼすとして注目されています。

そこで今回は、「歯の痛み」について東洋医学の視点から考えてみたいと思います。

 

 

歯の痛みの原因には虫歯や歯周病が関係することが多く、この場合には当然ながら適切な歯科治療が必要になります。

しかし、虫歯や歯周病が認められないにもかかわらず、歯や歯茎の調子が優れないと感じることがあります。

東洋医学では、辛いもの・甘いもの・油っこいものを偏食し続けると胃や大腸に熱が生じやすくなり、この熱が手足の陽明経と呼ばれる経脈に沿って顔面に伝わり、歯や歯茎を傷つけると考えます。

老化による虚証タイプとは異なり、この実証タイプでは歯痛や歯肉の腫れが強く、胃や大腸の熱によって口臭や口渇、便秘などを伴いやすいという特徴があります。

赤みの濃い舌、黄色っぽい舌苔も熱の所見の一部です。

該当する場合には日頃の食習慣を見直しつつ、歯痛を鎮める顎まわりのツボや、胃腸の熱を冷ますツボの刺激を試してみてください。

 

               

               author:工藤 匡(本校教員、附属臨床センター長)

 

 ※暮らしと健康の月刊誌「ケア」7月号に掲載されました。

 

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ひねもすのたりのちびっ子かな

 

 半袖で歩く人もいたほど暖かい日が続いたある春の週末、街中でふと気づいたことがありました。

 

ショッピングモールにも駅のコンコースにも親に抱かれた乳児や手をひかれた幼児がたくさんいたのですが、意外に静かなのです。泣く、わめく、だだをこねる――ちびっ子の騒がしさ3点セットが方々で聞かれても当然なのに、その週末は不思議なくらいに穏やかな感じでした。これ、本当。

 

春の陽気のせいに違いない。そう思いました。こんな日は子どもの気分がいいから、いつもより素直になるでしょうし、大人だって気持ちがのんびりとして、些細なことで子どもを叱ったりもしなくなりそうです。どちらも機嫌よく過ごせるので、あの穏やかな雰囲気になるわけでしょう。

 

人間の心や身体の働きが自然と相応している――東洋医学にある「天人合一」という考え方に改めて思い至ったのでした。

 

草木が若芽を出したり、花を咲かせたりする春。虫たちが動き出し、動物の生殖機能も活発となる春。「天人合一」の原理によれば、人も同様で、身体の奥でおとなしくしていたエネルギーが、そろそろ活発に巡りだす時期です。

 

ということは、あの日ちびっ子たちが静かにしていたのは、つかの間のアイドリングで、すぐにもトップギアでの大暴れが始まるのでしょうか?

 

東洋医学でいう「肝(かん)」は、エネルギーを全身に巡らせ、身体に陽気を満ち溢れさせる働きをします。そういえば、子どもたち、みんな肝の調子が良さそうですものね。一方、肝がスムーズに働かないと、のぼせや鼻炎、生理不順などの症状が現れやすくなります。

 

そんなちびっ子の元気がうらやましい大人に、あの元気さを少しでも取り戻す方法があります。身体のエネルギーの巡りを促進するために、いつもより早起きして運動したり、酸味・甘味のある食べ物を摂ったりしてはどうでしょうか。ツボ療法では、太衝(たいしょう)、印堂(いんどう)、太陽(たいよう)を押してみると症状が緩和されるかもしれません。

 

試してみて、ものすごく元気が出てきても、泣いたり、わめいたり、だだをこねたりしないでくださいね。

 

もちろん、東洋医学の原理は、冒頭で述べたような素朴な実感にとどまるものではありません。長い歴史の中で、その原理や応用は精緻に体系づけられてきました。

 

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雨の日と月曜日は

カーペンターズの代表曲のひとつ『雨の日と月曜日は』では、サビの箇所で「雨の日と月曜日は、いつも気分が落ち込む」と歌われます(これ、名曲。知らない人は、ぜひネットで検索してみてくださいね)。

 

雨の日と月曜日は、いつも気分が落ち込む――その理由を考えてみたことがありますか。

 

雨の日は陽も射さないから、どんよりとした感じだし、土曜日曜と、どこかに出かけて楽しく過ごした後だから、月曜日は身体も疲れて仕事に気乗りがしないからでは――たいていの人は、そんなふうに考えると思います。

 

東洋医学が出す答えは、「湿(しつ)」のせい、です。身体のなかに停滞している余分な水分が不調の理由だと考えます。

 

「湿」には2つの種類があります。身体の外から入ってくる「外湿」と、体内で生じる「内湿」です。

 

雨の日が続くと、身体が重だるく感じるのは「外湿」のせいです。お灸などを活用して身体を中から温め、湿を身体の外に発散させると改善します。足三里(あしさんり)・豊隆(ほうりゅう)・水分(すいぶん)といったツボに灸を据えます。

 

食欲減退、下痢、軟便、浮腫や舌の腫れぼったさなどの症状が現れるのは「内湿」のせいと見てよいでしょう。消化機能や水分代謝に関係する「脾・胃」の働きが低下することで発生します(週末にお酒を飲みすぎたりすると、なりがちですね)。まずは過食を避け、規則正しく食事を摂るよう心がけましょう。消化機能を助ける陰陵泉(いんりょうせん)・中脘(ちゅうかん)・気海(きかい)といったツボへの灸が効果的です。

 

『雨の日と月曜日は』の原題は、Rainy Days and Mondaysです。うんと昔に耳にした一説によると、このandがクセ者で、じつは「雨の日と月曜日」ではなく、「雨の日で、なおかつ月曜日は」、つまり「雨の降る月曜日」という意味だとか。ただ、インターネットでチェックしてみると、やはり素直に「雨の日と月曜日」と解釈するのが正しいようです。もちろん、そこには「雨の降る月曜日」も含まれますけれど。

 

もしも「雨の日で、なおかつ月曜日」だとすれば、そりゃもう人によっては「湿」がいっぱいで、気分が落ち込むのも無理はないでしょう。ぜひ鍼灸で、すっきりしてもらいたいものです。

 

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◆湿を身体の外に出す 

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◆消化機能を助ける

 

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水のトラブル、身体の場合は、脚のむくみ

 

人間の体は、ほとんどが水からできています。成人では体重の約60~65%が水分。したがって体重50kgの人では、うち30~32kg程度が水です。2リットルのペットボトル15~16本分になります。置き場所が悪いと邪魔でしょうがないくらいの量ですね。

 

ちなみに胎児の水分割合は90%、新生児は75%、子どもは70%です。やはり子どもは、みずみずしい。

 

一方、老人に至ると水分割合は50~55%にまで下がります。生きるとは少しずつ水分を失っていくことなのかもしれません。しんみり。

 

さて、身体の水分のうち3分の2は細胞の内に含まれ、残り3分の1が血液やリンパ液などとして体内を循環します。こうして身体を浸し、身体をめぐって生命を維持しているのが水分ですから、何らかの原因で代謝(入れ替わり)が悪くなると、さまざまな不調につながるのも当然です。

 

その代表例が、脚のむくみです。他にも、身体の重だるさ、関節の重痛、食欲不振などが生じやすくなります。

 

「何らかの原因で代謝が悪くなると」と書きましたが、この原因を東洋医学では、「痰(たん)」や「湿(しつ)」の増え過ぎ、と考えます。簡単に言えば、身体の水分の過剰・停滞ということです。冷たい飲食や油物の摂り過ぎで胃腸の働きが弱まったり、足腰の冷えが続いたりすると起こりやすくなります。

 

簡単な自己診断もできます。鏡で舌を見てください。舌がボテっと大きく、舌の上の苔(こけ)が粘っこく厚くなっていませんか。もしそうなっていたら、「痰(たん)」や「湿(しつ)」が増えているサインかもしれません。

 

では、脚のむくみを解消するには、どうしたらよいでしょうか。

 

直接的には、脚のむくみを軽くするための靴下・ストッキングの着用や膝下のセルフマッサージがすぐに試せます。そしてもちろん、「足三里」「豊隆」など、水分のめぐりをよくするツボの刺激も有効です。

 

間接的な対処も大切です。脚のむくみが生じやすいのは、胃腸の働きが低下したり、足腰が冷えたりする時なので、そうならないよう食生活をはじめ生活環境を整えましょう。

 

水、水分の重要性を人間は昔から本能的に知っていたでしょうが、水分を健康づくりや病気治療の理論に組み込んでいち早く体系的に考えたのは、東洋医学なのです。

 

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春の頭痛、それは「気のせい」です。

 

春の訪れはうれしいけれど、この季節、なぜだかきまって頭痛がしやすくて――そんな人は少なくないようです。春と頭痛の関係は、東洋医学の「五行論」(「陰陽五行説」とも言います)で説明がつきます。

 

日に日に陽気がよくなり、あちこちで草木が芽吹き始めるのを目にすると、自然界のエネルギーがぐんぐん高まっているのを実感できますよね。でも、エネルギーが高まっているは外の世界だけではないのです。

 

自然界の一部である私たちの身体の内でもやはり、エネルギーが高まっています。東洋医学的に言えば、気が上がりやすくなっているわけです。人によってはアゲアゲ状態かもしれません。

 

では、なぜそれが頭痛に関係するのでしょうか。

 

その答えは「肝の臓」にあります。(東洋医学で言う肝の臓は、私たちが知っている肝臓とは、かなり違ったあり方をしているのですが、話がややこしくなるので、ここでは触れません。)

 

肝の臓は、気のめぐりをスムーズにするのが大きな役割です。したがって、その働きが悪くなると、気のめぐりが滞ります。滞ると身体に余分な熱(体温とは違います)が生じやすくなります。暖められた空気と同じように、身体の熱にも上昇する性質があるので、余分な熱は経絡(気の循環・反応経路のこと)を伝わって上へ上へと移動し、これが頭痛の一因となります。頭痛の他に「首肩が張る」「のぼせる」といった症状に表れる場合もあります。

 

でも、なぜそれが春に?という疑問に、まだ答えていませんでした。

 

春に身体の気が上がりやすいことは既に説明しました。その気のめぐりを整える肝の臓の働きが鈍りがちなのも実は春なのです。東洋医学の考え方では、春という季節と肝の臓は同じ「木」というグループに属します。ふたつは密接に関連しているのです。

 

春の頭痛に悩まされる人は、気のめぐりをよくする「合谷」や「風池」といったツボを刺激し、あわせてウォーキングのような軽く汗をかく程度の運動をすると症状が軽減します。

 

なぜこの季節にきまって不調に? なぜいつも身体のこの部位に症状が?――東洋医学になら説明ができるケースがたくさんあります。

 

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ブログをはじめました。

 

こんにちは、北海道鍼灸専門学校です。

 

このブログには、

これから鍼灸を中心に東洋医学の理論や知識を

わかりやすく伝える記事を掲載していきます。

知ってもらいたいこと、覚えておいてほしいことを

できるだけ読みやすく書いていきたいと思います。

 

実際に、はり治療、きゅう治療を受けたことがあるか、

受けたことがある人が身近にいないと、

なかなか鍼灸に関心を向けることはないかもしれません。

でも、多くの人(もしかして、あなたも)が経験する

「なんだか身体がだるい、すっきりしない」

「いつもこの時季になると調子が悪い」

といった、なんとも言えない不調やモヤモヤに

とりわけ対処しやすいのが、鍼灸の強みなのです。

 

いきいきとした生活への第一歩は、

身体や健康への意識を高めること。

鍼灸を知ることを、その一歩にしてみませんか。

 

またブログでは、北海道鍼灸専門学校で

鍼灸師をめざして勉強中の学生や

それを支える教職員の声、

学校説明会・体験入学ほかイベントの

お知らせ・実施報告も逐次お伝えしていきます。