東洋医学では、毛髪のことを血余(けつよ)と呼び、健やかな毛髪には血の状態が大切になると考えます。今回は脱毛症の病因のひとつである「陰血虚損」について説明します。
陰血虚損のタイプは、肝腎陰虚により陰血が不足することで血虚になり、毛髪が十分に栄養されなくなります。男性型脱毛症や脂漏性脱毛症、フケ症が該当することがあり、肝腎の虚から頭のふらつき、耳鳴り、足腰の重だるさなどの症状を伴います。
また、陰虚による虚熱のため舌色の赤味が増し、脈もやや速くなりますが、虚証であるため脈の感触は弱めになります。
注意点として脱毛が急速に進む、広範囲に渡るといった場合には、何らかの基礎疾患や薬剤の副作用による影響などが考えられますので、医療機関での診察が重要になります。診察の結果、これらの可能性が除外された場合には、東洋医学のツボ刺激を日常生活の中に取り入れてみてください。脱毛部位の頭皮を直接刺激する方法もありますが、頭皮に至る血管のつけ根に位置する顔面部や後頸部のツボを刺激して、日頃から気血の巡りを良くすることをお勧めします。
【紹介するツボ】
①百会(督脈)
耳を前に折り曲げ、左右の耳の先端を結ぶ線が、頭の正中線と交わるところ。
※“つむじ”よりは少し前方になります。
②曲差(足の太陽膀胱経)
前髪際から小指の幅ほど後方の高さで、正中線から外方1寸5分のところ。
(眼がしら(眼の内端)から上方に進み、前髪際に交わるあたりになります。)
※前髪際が後退している場合、眉間から上方3寸(指幅4本分)のところを前髪際とします。
③和髎(手の少陽三焦経)
もみあげの後方で、耳介のつけ根の前方のところ。
(浅側頭動脈の拍動を見つけて、その後方に取ります。)
④風池(足の少陽胆経)
後頭骨の下方で、胸鎖乳突筋と僧帽筋の起始部との間の凹んでいるところ。
(後頭部の中央にある骨の突起(外後頭隆起)の下縁の高さで、その外方にある窪みです)
author:工藤 匡(鍼灸科学科長)
※暮らしと健康の月刊誌「ケア」2022年3月号に掲載された原稿です。