耳の不調のなかで多いのが耳鳴り。本人にとってはまさに耳障りな症状で、生活の質に影響を及ぼします。特定の病気による耳鳴りがある一方、原因がはっきり分からないタイプも多いと言われます。
東洋医学の理論では、耳は五臓のなかの腎と密接なつながりを持つと考えます。腎は生体エネルギーとも言うべき腎精を宿し、原気(元気)に関係します。加齢や久病(慢性疾患)によって腎虚・腎精不足の状態になると、すぐに疲れる、抜け毛・白髪が増える、歯や骨が弱る、腰や膝がだるいなどの症状を招きます。
耳鳴りに加えて、これらの症状が多く当てはまる場合には、腎を補う効能のあるツボ刺激を試してみてください。両親から受継ぐ腎精は「先天の精」とも呼ばれ、加齢とともに減っていきます。身体の精気を補うためには、飲食を通じて「後天の精」を増やす必要がありますので、腎虚の改善には食生活の見直しも重要となります。また、ストレスが多い現代社会では肝の疏泄作用が損なわれ、気血の流れが滞りやすくなります。気血のめぐりが良くなるように、耳の周囲にあるツボの刺激も合わせてお勧めします。
①太渓(たいけい) 足の少陰腎経
⇒内果尖とアキレス腱の間の陥凹部、後脛骨動脈の拍動部
(内側のくるぶしの頂点の高さでアキレス腱との間。動脈の拍動部に取ります。)
②完骨(かんこつ) 足の少陽胆経
⇒乳様突起の後下方の陥凹部
(耳たぶの後ろに触れる乳様突起を確認し、その下縁の内側にある陥凹部に取ります。)
③聴宮(ちょうきゅう) 手の太陽小腸経
⇒耳珠中央の前縁と下顎骨関節突起の間の陥凹部
(耳の孔の前方に耳珠という軟骨の出っ張りがあります。その耳珠と下顎骨の間で、口を軽く開
けると少し窪むところに取ります。)
④聴会(ちょうえ) 手の太陽小腸経
⇒珠間切痕と下顎骨関節突起の間の陥凹部
(耳珠の下の凹みと下顎骨の間で、口を軽く開けると少し窪むところに取ります。)
author:工藤 匡(鍼灸科学科長)
※暮らしと健康の月刊誌「ケア」11月号に掲載された原稿です。